「働く天使ママ」とは
ペリネイタルロスとは
「ペリネイタルロス」とは、流産、死産・新生児死亡、人工妊娠中絶など、お産をとりまく赤ちゃんの喪失です(※1)。これまで日本では語られることは少なく、タブー視する社会的傾向がありました。そのためご両親は、語る場がないどころか、早く忘れるように強いられたり、赤ちゃんの存在を無視する言葉を投げかけられて傷つくなど、長いグリーフ(喪失に伴う心身の様々な反応)の期間を、何のサポートも得られないまま孤独に過ごされている状況でした(出典:聖路加国際大学ペリネイタル・ロス研究会サイトより)。こういった、社会的に認められないグリーフは「公認されないグリーフ」と呼ばれます。
厚生労働省令では「妊娠12週(4ヶ月)以降の亡くなった赤ちゃんの出産」を死産と定義していて、実際のお産も人工的に陣痛を起こして経腟分娩、または帝王切開で行われます。2022年には1万5,178人の赤ちゃんが死産で亡くなっており、死産率は2.0%(厚生労働省人口動態統計)、50人に1人以上の赤ちゃんが亡くなる計算です。また、12週未満の流産の頻度は平均で約15%と言われます。妊娠経験のある女性の約40%が流産を経験するとの調査(厚生労働省調査班)もあります。また、妊娠年齢が上がると流産率も上がり、40歳代では妊娠の約半数が流産するともいわれます。
※「ペリネイタル/Perinatal」は「周産期」と和訳されます。周産期とは妊娠22週から生後7日未満と定義されていますが、妊娠22週未満の流産・死産についても「赤ちゃんとのお別れ」として「ペリネイタルロス(周産期喪失)」と表現されています。
「天使ママ」とは
「天使ママ」とは、ペリネイタルロスを経験した母親(※)の総称です。亡くなった赤ちゃんを、お空に還った「天使」と表現しています。SNS等で経験者同士がつながるキーワードとなっています。
※実際にはペリネイタルロスだけでなく、乳児死や小さなお子さんを亡くした母親も含めて「天使ママ」と表現されることもあります。iKizukuでは公認されないグリーフの認知を広めるべく、ペリネイタルロスに焦点を当てております。
※「天使ママ」というという呼称についてのiKizukuの思いについて記事を書いていますのでご参照ください。
「働く天使ママ」とは
「働く天使ママ」とは、ペリネイタルロスを経験した働く母親の総称で、iKizukuの二人が使い始めました。SNS等での天使ママの投稿は多い一方で、仕事を持ち働いている天使ママの情報が少ないことから、「#働く天使ママ」のハッシュタグを作って情報を発信、当事者同士のつながりを構築中です。
ペリネイタルロスを経験する天使ママは平均で6、7人に一人、働く女性の妊娠年齢は高くなる傾向がありその比率は更に高くなります。働く女性が増えている中、働く天使ママの人数も今後ますます増えていくことが考えられます。
「働く天使ママ」の現状
1.社会の認知不足
公認されないペリネイタルロスの経験者「天使ママ」は必要なケアを受けられておらず、社会から孤立しがちです。行政・自治体で行われるケア、民間の産後ケアサービス共に、基本的には“無事に産まれた”産後を前提としたケアとなっており、天使ママが参加できない・しづらいものとなっています。また、そのような状態であることから、天使ママ本人にも産後という認識が欠如し、必要な心身のケアが疎かになりがちです。そんな中、各地の自助グループ・ピアサポートグループによる取り組みが各地で細々と行われてきたのが現状です。
2.情報の偏在
ペリネイタルロスについての情報・教育がほとんどありません。日本の性教育の遅れ、産婦人科や自治体で行われる両親学級などでも触れられず、書籍やネット等にも、経験者による体験談中心で、公的な情報(国、自治体、医療機関、専門家等による情報)はほとんど掲載がありません。天使ママは、必死にインターネットで検索をし、個人の努力で何とか情報を得ているのが実態です。
3.社会復帰・職場復帰への苦しみ
ペリネイタルロスは、心身共に大きなダメージをもたらし、特に心の回復には時間を要します。日本人のグリーフ反応が治まるまでの平均期間が4年半とも言われる中(一般社団法人日本グリーフケア協会による)、愛着関係の強い子どもとの死別は更に長く、文献によっては10年以上かかるとも言われます。それにもかかわらず、天使ママは、赤ちゃんがいないということから産後すぐの社会復帰を求められます。
働く天使ママは心身が回復途上のまま、育児休業もなく短期間での職場復帰を余儀なくされます(※)。職場におけるペリネイタルロスの認知がないことによる配慮不足などもあり、うまく復帰ができずに退職を選択したり、働き方を変えざるを得なかった例も多く見られます。本人の回復状況を見ながら、本人のペースで柔軟な働き方ができるよう配慮が必要です。また、本人が前向きに働けるようキャリアプラン・ライフプランについても中長期的なサポートが必要だと考えます。
※妊娠12週以降の死産の場合は8週間の産後休業を取得させる事が法律で定められています(本人が請求し・医師が認めた場合は6週間経過後は就業可能)。一方で、12週未満の流産についての法定休暇はない為、流産後すぐに復帰することになります。職場に妊娠を公にしていない段階で流産した場合など、流産の事実を隠して出勤をしている方も多いです。
(制度の詳細はこども家庭庁のサイト「流産・死産等を経験された方へ」をご参照ください)
優しい社会へ/支援の現状
最近の動き
2021年5月31日、厚生労働省から『流産や死産を経験した女性等への心理社会的支援等について』と題し、地方自治体において流産や死産を経験した女性等へのグリーフケア等の支援をするようにとの通知が出されました。その後、少しずつ自治体で流産や死産をされた方に向けたページができたり、相談窓口が設置され始めています。自治体で当事者同士が気持ちを分かち合う会を開催するところも出てきています。下記厚生労働省のサイトに相談窓口の一覧が掲載されていますので参考にしていただければと思います。iKizukuで紹介している関連の記事も是非ご覧ください。
リーフレットのご案内
iKizukuの紹介と上記の働く天使ママについてまとめたリーフレットを作成しています。是非ご活用ください。下のボタンからダウンロードいただけます。また現物をご希望の方はお問い合わせからご連絡ください。
働く天使ママ実態調査アンケート結果
働く天使ママコミュニティiKizukuでは、2021年12月、ペリネイタルロス(流産・死産・新生児死亡・人工妊娠中絶等お産をとりまく赤ちゃんの喪失/以後「ペリネイタルロス」と記載)を経験した働く女性の実態や課題を定量的に把握することを目的にWEBアンケートを実施いたしました。
2021年12月3日(木)~12日(日)の10日間、で、延べ277件のご回答を頂戴いたしました。
その内、女性の回答271件を中心に取りまとめた結果を公表致します。
※ご回答者からはアンケート回答時に公表許可を頂いております。
<結果サマリ>
本調査においては、ここ1〜2年でのペリネイタルロス経験者の声を多く集めることができ、ペリネイタルロスがもたらす経験者への影響の大きさ、法定休業である産後休業が取得されていない実態、関連制度の周知徹底の必要性、切れ目ない経験者への支援ニーズが明らかとなりました。
1.ペリネイタルロスは、経験者の心身に加えて仕事に与える影響も大きく、その影響は多岐に渡る
・ペリネイタルロスにより働き方に変化のあった割合は、妊娠後期になるほど60%を超える
・働き方の変化は多岐に渡り、退職を選んだケースも10%存在
・身体的影響があったとの回答は約60%、精神的な影響があったとの回答は約90%にのぼる
・仕事のモチベーションが低下したとの回答は約70%となった
2.ペリネイタルロスに関連する法定休業や制度の周知徹底がなされていないことが明らかとなった
・妊娠12週未満の約55%が当日または数日の休暇のみで復帰
・妊娠12週以降の約17%が法定休業である 産後休業を取得していない
非正規雇用においては、産後休業未取得が34%にのぼる
・制度等に関する情報入手手段は、職場からの提供と何も情報がなかったとの回答とで二分
3.ペリネイタルロス経験者を切れ目なくサポートできる仕組みや相談体制が求められている
・職場復帰時に98%が悩みがあると回答するも、悩みを相談できなかった/しなかった割合は62%にのぼる
・制度の周知徹底に加え、職場復帰前の心身の診察や働き方の相談制度、管理職への研修等の要望が多い
詳細は、回答結果資料をご覧ください。
尚、第三者が本調査結果を利用される際には、私どもへご一報と出典を明記の上ご利用下さいます様、お願い申し上げます。
<本調査においてご留意いただきたいこと>
本調査の特徴として、iKizuku及び共同代表2名のInstagram等のフォロワーからの回答が中心であり、経験からの経過期間が短くグリーフの強い段階の方が多いと推測されること、また、ペリネイタルロスとその周辺環境に対する問題意識をより強く持っている可能性のある母集団からの回答であることをご留意頂ければと存じます。
また、実態をお伝えするため、アンケートにお寄せ頂いた個人のお声をそのまま掲載しております。個々人のご意見・認識であり、必ずしも全ての経験者に当てはまらない場合があることをご了承の上お読み下さい。
アンケートについて中日新聞様にご紹介いただきました